結論:存在しません
理由は歴史を見れば一目瞭然なので、まずは軽くカラブリア州史のおさらいなどをしていきましょう。
カラブリア州の歴史(概要)
古代ギリシャ時代にはすでに「カラブリア」の名前が存在していたらしい、イタリア半島南部のなんだかカラブリア州っぽい地域で、「カラブリア州」が今の形になったのはなんと1970年(イタリア国内の州が現在の形に制定された年)。その間「カラブリア」と呼ばれていた地域は、現在に比べはるかに広大でした。
こちらがギリシア人が作った地図。現在のカラブリア州とプーリア州南部がカラブリアと呼ばれていた頃の物。
そして東ローマ帝国支配下の時代、1045年作といわれている地図がこちら。
イタリア半島南部に2つの州があるものの、カラブリア州はバシリカータ州とプーリア州の一部を含んだ超・巨大なエリアとなっています。
その後のノルマン人の侵攻・ナポリの台頭・シチリアの台頭などなど、もぅ色々あってぐっちゃぐちゃだった中世を経て、近世に入るとナポレオン(仏文化)がカラブリア州に到達します。
実はこのナポレオン時代まで、カラブリア州はバシリカータ州とプーリア州一部を含んだ広大なエリアで、北と南に分けてざっくり管理されてきました。
1860年8月末日、コゼンツァ市にガリバルディ到着。
1861年のイタリア建国の際にバシリカータ州が作られ、カラブリア州は州内に3県(コセンツァ・カタンツァーロ・レッジョカラブリア)を持つ「州」と定められます。
その後の1947年、州法成立により正式に「州」となり、1970年に現在の形が改めて州法により定められたわけです。
途中戦争も挟んだけど、ガリバルディ来てからなんだか時間がかかったね!
カラブリア州郷土料理は存在するのか
はい、ここで題名の「郷土料理は存在するのか」に戻ります。
州として成立してからの時間が短すぎる&広大なエリア内でそれぞれの地域でそれぞれの食文化が発達した、ので、カラブリア州単位での郷土料理は存在しない(極論すれば、州内の県単位でも「県郷土料理」と呼べないぐらいのバリエーションがある)。これが在住者として日本の皆様にお伝えできる「正しい形」だと思っています。おかげさまで宣伝しにくいしご案内しにくいです(涙
常に支配される側だったカラブリアは、ある意味それぞれの支配者の領土境界が接する場所でもありました。カラブリア北部はフランス宮廷文化の恩恵を受けてたけれど南部はトルコ経由のアラブっぽい文を満喫中♪なんて時代も長く、現在の「州」としての塊で文化背景を見たときにその統一性はいっさいありません。まあねー、現在の州としてはここ50年程度の歴史しかないから。。仕方ないよねー。
なので、全てにおいて「これ、カラブリア州郷土料理!」と言われると、すっごく違和感があります。それ「カラブリア州××の郷土料理でしょ?」と。
カラブリアと縁が出来てから長いですが、名前や形状が違っても州全体で消費されている食べ物/お料理が実は思いつかないんですよね。特に州北部コセンツァと州南部レッジョカラブリアの文化差は、もう行き来にパスポートがいるんじゃないかと思うぐらいありまして。
例えばコセンツァの食べ物をレッジョカラブリアに持って行って「これが州の郷土料理だ!」って言ったら、まぁレッジョカラブリア人に袋叩きされそうぐらいの勢いで違います。
「カラブリア州のサラミ」問題
カラブリアと言ったら!な辛いサラミ・ンドゥイヤ(’nduja)も、実は州の中西部でのみ作られていた地方限定のサラミでした。コセンツァで見かけるようになったのはごく最近になってから。具体的には2000年代に入ったぐらいからです。
このサラミ・ンドゥイヤ(’nduja)を「カラブリアの郷土食だ!」って言ったらコセンツァ人は「は?オレたち食べないし!」ってなります。カラブリア産の有名食材である、とは認識しているけど、自分たちの郷土の味じゃない。
ただ、彼らはいちいちそんなことを外に向けて発信しないし、たまーに「これがカラブリアの郷土料理です!」と見慣れない料理紹介されてても「おやまぁ。」と生ぬるく笑っているだけです。
さらに、ビジネスチャンスと見れば「カラブリア州特産!」と銘打って作って売る、ぐらいは平気でします。ビジネスだからね。自宅じゃ作らないけど。
私の方針はこんなカンジです
そんなわけで私は、そろそろやめませんか?「カラブリア州郷土料理」という安易な名称。正しく「カラブリア州××の郷土料理」と伝えてみませんか?という、ほんっとーに小さな私の声を上げ続けております。
で、この小さな声に耳を傾けてくださる人たちもいて、少しずつですが日本でも「カラブリア州の××県のお料理ですよ」とご紹介いただけるようになってきました。
「州の郷土料理って言った方がお客様にアピールできるのに!」とプンプンしながらも(←笑)協力してくださる先生や、「なるほどね!」と言ってくださる方たちが増えてきており、みなさま、微妙なトコロをご理解いただいて本当にありがとうございます。微力ながら今後も「カラブリア州郷土料理じゃないよ! 州の××の郷土料理だよ!」っていう、誰がそんな細かいところ気にしているの?なピンポイントを大切に、ご案内していく所存。
これもある意味郷土愛だよねってお客様に指摘されて、妙にしっくりきましたけれども。
引き続き、御贔屓に。